「ラグランジュの運動方程式の導出」の版間の差分
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2015年8月5日 (水) 05:39時点における版
はじめに
この記事では、ラグランジュの運動方程式を導出の仕方を解説します。一般的な説明の仕方ですが、それなりに教科書には書いてないことを加えたつもりなので、多少はお役に立てるかもしれません。
ラグランジュの運動方程式は、系の運動エネルギーと系に加わる力から、系の運動を導き出す運動方程式です。
力とたった一つのスカラー関数で系の運動のすべてを記述する美しい方程式です。
系の状態からエネルギーを算出する式が得られれば、機械的に、かつ座標系に依存せず、系の運動方程式を組み立てることができる優れものの手法です。
この記事では、系を互いに影響しあう質点の集合体と捉え、より一般的な一般座標を使い、ニュートンの運動方程式を、座標系に依存しない形のラグランジュの運動方程式に 変換し、ラグランジュの運動方程式が、ニュートン力学と同等であることを示します。
一般化座標
系はN個の質点からできているとします。
各質点のデカルト座標は 、質量は
としましょう。
は質点を識別する番号です。
1個のデカルト座標は3個の座標値を持つので 個の座標値があります。これを
個の自由度を持つといいます。
現実の系では、例えば、2個の質点はロープで繋がっていて距離は一定になっているとか、ある質点は特定の溝に沿って運動しなければ ならないとか、様々な条件の中で動きます。これを束縛条件といいます。
個のホロノーム型(後述)束縛条件が存在すると、自由度は
個に減少します。これは全ての質点の座標を
個の独立変数で表せることを意味します。つまり、束縛の時間的な変動も考慮すると、質点の座標は
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( 1 ) |
と表せます。この独立変数 を一般化座標といいます。
ダランベールの原理と仮想仕事の原理
系の各質点にかかる力を とすると、ニュートンの運動方程式は
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( 2 ) |
となります。
ここで、仮想変位なるものを使います。仮想変位とはもともと静力学の概念で、時間の経過を伴わない、質点の実際の運動とは関係のない任意の変位です。つまり、静力学では、力が釣り合っているのか判断するため、ちょっと仮に動かしてみて、エネルギーが吸収されたり放出されたりしないことを確認します。これを仮想仕事の原理と呼びます。
この仮想変位を と表記することにしましょう。
ニュートンの運動方程式を力と「慣性力」の釣り合いと考え
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( 3 ) |
とします。これがダランベールの原理ですが、式(3)と「仮想変位」 との内積を取り、全質点の総和を取ると、
つまり、力と慣性力が仮想変位に対して行う仕事の総和を計算すると
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( 4 ) |
となります。これは元々静力学の原理であった仮想仕事の原理のダランベールの原理(動力学)への拡張です。注意して欲しいのは、この式は、束縛条件の範囲内で取りうる任意の仮想変位で成り立つということです。
解析力学ではこれを一番基本の基礎方程式とします。
「仮想変位」 の3N個の座標値がそれぞれが完全に独立ならば式(4)は式(2)と同値ですが、仮想変位
が後述する束縛条件に従う場合、式(4)は式(2)より条件が甘くなります。このように条件を甘くしてもちゃんと解けるのは不思議ですが、束縛条件がきつい分式(4)が甘くなっているので、辻褄はあっているようです。厳密なニュートン力学との等価性の証明は残念ながら私の手には余ります。
束縛条件と束縛力
質点の座標の自由度を下げる働きをする「束縛」をもう少し深堀してみましょう。
束縛には、ホロノーム型と非ホロノーム型の2種類がありますが、ここではホロノーム型の束縛のみを扱います。
ホロノーム型の束縛とは、
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( 5 ) |
という形にかける束縛のことです。例えば、球が坂を転がり落ちる場合、球は坂に沿って転がるように束縛されます。この時坂から球は、坂に沿って動くように垂直抗力を受けます。
もし、物体が電車のように決まった軌道に沿って動くなら、物体は軌道(レールのようなもの)から車輪にやはり垂直抗力を受けます。この、系を束縛条件に沿って運動させる力を束縛力といいます。
ベクトルを使って物体を扱うニュートン力学では、この束縛力を見積もるのがなかなか大変で、計算が困難なのですが、解析力学では、束縛力をうまく無視することができます。
例えば、剛体の運動は、本当は剛体の形を保つための原子/分子間に働く無数の束縛力を扱わなければならず、無限に等しい個数の運動方程式を解かなければなりません。しかし、解析力学では、束縛力を直接扱わずに式を立てられるため、運動方程式が非常に単純化されます。
ニュートンの運動方程式を、束縛力も含めて考えてみましょう。質点にかかる力 を2つの力
に分けて式(6)のように書き直します。
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( 6 ) |
が束縛力以外の力、
が束縛力で系の運動を束縛に合わせる力です。束縛力は必ずしも内カ(質点間の作用反作用)ではなく外カの場合もあります。(例: 振り子を支えるカ)
ここで、束縛力とは何なのか、そもそもどのように定義できるのかを考えてみましょう。
式を仮想仕事の原理の形に書き換えると
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( 7 ) |
となりますが、教科書によっては慣性力と力の釣り合いを強調して
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( 8 ) |
と書くことが多いです。
束縛力にはおもしろい性質が有ります。それは束縛力は仕事をしないということです。この点について少し考えてみましょう。例えば垂直抗力は変位の方向と力が垂直ですし、ロープの張力はロープの両端で張力によるエネルギーの得失が発生して正味0になります。しかしこのことは、より一般的な、式(5)に従うことで発生する一般的な束縛力でも成り立つのでしょうか? そもそも束縛条件から束縛力はどのように決まるのでしょうか?
束縛条件式(5)の関数は常にゼロですから、仮想変位に対する変化量も当然ゼロです。
が質点
の仮想変位の各軸(i=1⇒x座標, i=2⇒y座標, i=3⇒z座標) の成分を表すとすると、仮想変位に対する
の変化量は以下の式であらわされます。
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( 9 ) |
これは、を要素とする3N次元の多次元ベクトル
と、
を要素とする3N次元の多次元ベクトル
の内積と考えることができます。
つまり、仮想変位は3N次元空間の超曲面
に垂直な多次元ベクトル成分を含みませんから、質点に加わる力のうち、超曲面
に垂直な方向の成分だけを取り出せば、その力は仕事をしません。これを束縛力(
)と定義してやれば、束縛力は必然的に仕事をしないことになります。つまり束縛力とは質点にかかる力のうち、式(5)を満足する超曲面に対して垂直な力、つまり広義の垂直抗力ということになります。
以上の定義から、束縛力は仮想変位に対して仕事をしませんから
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( 10 ) |
が成立つはずです。式(1)の関係を使って式(10)を展開すると
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( 11 ) |
は束縛の影響を受けず、完全に独立ですから、任意の
で式(11)が成り立つことを考えると、カッコの内側は 常に 0 になるので
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( 12 ) |
ということになります。従って、ニュートンの運動方程式は、を掛けて全質点の総和を取ると
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( 13 ) |
となり、式の中から束縛力が消えてしまうことが分かります。
2つの公式の証明
ここで、後で使う2つの公式を導いておきます。
最初の公式は
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( 14 ) |
で、一般座標の変化に対する質点の座標の変化率は、一般座標の変化速度の変化に対する質点の速度の変化率は等しい という直観的にはすぐに正しそうだとわかる公式です。
証明はとても簡単で、を時間で微分すると
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( 15 ) |
両辺を で偏微分すると (14)が得られます。
次の公式は
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( 16 ) |
これは、 に関して一般座標の偏微分と時間微分の順番を入れ替えてもよいということを表していますが、これは式(15)を
で偏微分すると
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( 17 ) |
式(17)の右辺が なのは明らかなので、式(16)は証明されました。
ニュートンの運動方程式からラグランジュの運動方程式へ
さて必要な公式が整ったところで、ニュートンの運動方程式をラグランジュの運動方程式に一気に持ってゆきましょう。
仮想仕事の式(13)の左辺は
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( 18 ) |
公式(14)(16)を利用すると
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( 19 ) |
すべての質点の運動エネルギーの合計は なので
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( 20 ) |
式(13)の右辺を
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( 21 ) |
とすると、式(13)は
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( 22 ) |
これがラグランジュの運動方程式です。ちなみに右辺の は仮想変位と掛け合わせてエネルギーを生み出すものなので「一般化力」という名が付いています。
覚えておいて下さい。