「ラグランジュの運動方程式の導出」の版間の差分
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ホロノーム型の束縛とは、 | ホロノーム型の束縛とは、 | ||
− | {{eqn|<math>G_l({\boldsymbol r_1}, {\boldsymbol r_2}, \cdots, {\boldsymbol r_N})=0\ (l = 1, 2, \cdots h)</math>|2}} | + | {{eqn|<math>G_l({\boldsymbol r_1}, {\boldsymbol r_2}, \cdots, {\boldsymbol r_N}, t)=0\ (l = 1, 2, \cdots h)</math>|2}} |
という形にかける束縛のことです。例えば、球が坂を転がり落ちる場合、球は坂に沿って転がるように束縛されます。この時坂から球は、坂に沿って動くように垂直抗力を受けます。 | という形にかける束縛のことです。例えば、球が坂を転がり落ちる場合、球は坂に沿って転がるように束縛されます。この時坂から球は、坂に沿って動くように垂直抗力を受けます。 | ||
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例えば、剛体の運動は、本当は剛体の形を保つための原子/分子間に働く無数の束縛力を扱わなければならず、無限に等しい個数の運動方程式を解かなければなりません。しかし、解析力学では、束縛力を直接扱わずに式を立てられるため、運動方程式が非常に単純化します。 | 例えば、剛体の運動は、本当は剛体の形を保つための原子/分子間に働く無数の束縛力を扱わなければならず、無限に等しい個数の運動方程式を解かなければなりません。しかし、解析力学では、束縛力を直接扱わずに式を立てられるため、運動方程式が非常に単純化します。 | ||
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+ | ニュートンの運動方程式を、束縛力も含めて考えてみましょう。 | ||
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ここで、変位 <math>\delta{\boldsymbol r_a}</math> で力が行う仕事の全質点での総和を考えます。ここでいう変位 <math>\delta{\boldsymbol r_a}</math> とは、特定の時刻で束縛に従うように変化する全ての方向の変位の集合のことです。従って、この変位には時刻の経過はありません。変位可能な方向の集合と考えてください。 | ここで、変位 <math>\delta{\boldsymbol r_a}</math> で力が行う仕事の全質点での総和を考えます。ここでいう変位 <math>\delta{\boldsymbol r_a}</math> とは、特定の時刻で束縛に従うように変化する全ての方向の変位の集合のことです。従って、この変位には時刻の経過はありません。変位可能な方向の集合と考えてください。 | ||
− | + | 質点間の関係がホロノーム型になるような束縛は仕事をしません。例えば垂直抗力は変位の方向と力が垂直ですし、ロープの張力はロープが移動すると両端でエネルギーの得失が発生して正味0になります。しかしこのことは、より一般的な、式(2)に従うことで発生する一般的な束縛力でも成り立つのでしょうか? | |
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+ | 式2は常にゼロですから、仮想変位に対する変化量もゼロです。<math>r_{a, i}</math>が質点<math>a</math>の各軸の座標値(i=1⇒x座標, i=2⇒y座標, i=3⇒z座標) を表すとすると | ||
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+ | {{eqn|<math>\sum_{a, i}\frac{\partial G_l}{\partial r_{a, i}}\delta r_{a, i}=0 \ (i=1,2,3 \ \ l=1, \cdots , h)</math>|4}} | ||
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+ | これは、<math>\frac{\partial G_l}{\partial r_{a, i}}</math>を要素とする多次元ベクトル <math>{\boldsymbol G_l}</math>と、<math>r_{a, i}</math>を要素とする多次元ベクトル<math>\delta{\boldsymbol R}</math>の内積と考えることができます。 | ||
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+ | つまり、仮想変位<math>\delta{\boldsymbol R}</math>は<math>{\boldsymbol G_l}</math>方向へのベクトル成分を含みませんから、質点に加わる力のうち、<math>{\boldsymbol G_l}</math>方向の成分だけを取り出せば、その力は仕事をしません。これを改めて束縛力と呼んで構わないでしょう。 | ||
束縛力が仕事をしないということは、束縛力に従っている仮想変位<math>\delta{\boldsymbol r_a}</math>に対して仕事をしませんから | 束縛力が仕事をしないということは、束縛力に従っている仮想変位<math>\delta{\boldsymbol r_a}</math>に対して仕事をしませんから | ||
− | {{eqn|<math>\sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot\delta{\boldsymbol r_a} = 0</math>| | + | {{eqn|<math>\sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot\delta{\boldsymbol r_a} = 0</math>|5}} |
− | が成立つはずです。式(1)の関係を使って式( | + | が成立つはずです。式(1)の関係を使って式(5)を展開すると |
− | {{eqn|<math>\sum_r \left ( \sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot \frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} \right )\delta q_r = 0\ (r=1,2,\cdots, n)</math>| | + | {{eqn|<math>\sum_r \left ( \sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot \frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} \right )\delta q_r = 0\ (r=1,2,\cdots, n)</math>|6}} |
これが、任意の <math>\delta q_r</math>で成り立つことを考えると、カッコの内側は 常に 0 になるので | これが、任意の <math>\delta q_r</math>で成り立つことを考えると、カッコの内側は 常に 0 になるので | ||
− | {{eqn|<math>\sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot \frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} = 0</math>| | + | {{eqn|<math>\sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot \frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} = 0</math>|7}} |
ということになります。従って、ニュートンの運動方程式は、<math>\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}</math>を掛けて全質点の総和を取ると | ということになります。従って、ニュートンの運動方程式は、<math>\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}</math>を掛けて全質点の総和を取ると | ||
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{{eqn|<math>\sum_a m_a\ddot{{\boldsymbol r_a}}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}= | {{eqn|<math>\sum_a m_a\ddot{{\boldsymbol r_a}}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}= | ||
\sum_a {\boldsymbol F_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} + \sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}= | \sum_a {\boldsymbol F_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r} + \sum_a {\boldsymbol C_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}= | ||
− | \sum_a {\boldsymbol F_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}</math>| | + | \sum_a {\boldsymbol F_a}\cdot\frac{\partial {\boldsymbol r_a}}{\partial q_r}</math>|8}} |
となり、式の中から束縛力が消えてしまうことが分かります。 | となり、式の中から束縛力が消えてしまうことが分かります。 |
2015年6月21日 (日) 09:54時点における版
はじめに
この記事では、ラグランジュの運動方程式を導出の仕方を解説します。
ラグランジュの運動方程式は、系の運動エネルギーと系に加わる力から、系の運動を導き出す運動方程式です。 系の挙動が運動エネルギーと力に集約して描けるのが特徴で、力とたった一つのスカラー関数で系の運動のすべてを記述する美しい方程式です。 系の状態からエネルギーを算出する式が得られれば、機械的に、かつ座標系に依存せず、系の微分方程式を組み立てることができる優れものの手法です。
この記事では、系を互いに影響しあう質点の集合体と捉え、より一般的な一般座標を使い、ニュートンの運動方程式を、座標系に依存しない形のラグランジュの運動方程式に 変換し、ラグランジュの運動方程式が、ニュートン力学と同等であることを示します。
一般化座標
系には N個の質点からできているとします。
各質点のデカルト座標は 、質量は
としましょう。
すると、1個のデカルト座標は3個の座標値を持つので 個の座標値があるわけです。これを
個の自由度を持つといいます。
現実の系では、例えば、2個の質点はロープで繋がっていて距離は一定になっているとか、ある質点は特定の溝に沿って運動しなければ ならないとか、様々な条件の中で動きます。これを束縛条件といいます。
個の束縛条件が存在すると、自由度は
個に減少します。これは全ての質点の座標を
個の独立変数で表せることを意味します。つまり、束縛の時間的な変動も考慮すると、質点の座標は
![]() |
( 1 ) |
と表せます。この独立変数 を一般化座標といいます。
束縛条件と束縛力
質点の座標の自由度を下げる働きをした「束縛」は質点の座標の取る値を制限します。
束縛には、ホロノーム型と非ホロノーム型の2種類がありますが、ここではホロノーム型の束縛のみを扱います。
ホロノーム型の束縛とは、
![]() |
( 2 ) |
という形にかける束縛のことです。例えば、球が坂を転がり落ちる場合、球は坂に沿って転がるように束縛されます。この時坂から球は、坂に沿って動くように垂直抗力を受けます。
もし、物体が電車のように決まった軌道に沿って動くなら、物体は軌道(レールのようなもの)から車輪にやはり垂直抗力を受けます。この、系を束縛条件に沿って運動させる力を束縛力といいます。
ベクトルを使って物体を扱うニュートン力学では、この束縛力を見積もるのがなかなか大変で、計算が困難なのですが、解析力学では、束縛力をうまく無視することができます。
例えば、剛体の運動は、本当は剛体の形を保つための原子/分子間に働く無数の束縛力を扱わなければならず、無限に等しい個数の運動方程式を解かなければなりません。しかし、解析力学では、束縛力を直接扱わずに式を立てられるため、運動方程式が非常に単純化します。
ニュートンの運動方程式を、束縛力も含めて考えてみましょう。
![]() |
( 3 ) |
が外力で系の外から加わる力、
が束縛力で系の運動を束縛に合わせる力です。束縛力は必ずしも内カではなく外カの場合もあります。(例: 振り子を支えるカ)
ここで、変位 で力が行う仕事の全質点での総和を考えます。ここでいう変位
とは、特定の時刻で束縛に従うように変化する全ての方向の変位の集合のことです。従って、この変位には時刻の経過はありません。変位可能な方向の集合と考えてください。
質点間の関係がホロノーム型になるような束縛は仕事をしません。例えば垂直抗力は変位の方向と力が垂直ですし、ロープの張力はロープが移動すると両端でエネルギーの得失が発生して正味0になります。しかしこのことは、より一般的な、式(2)に従うことで発生する一般的な束縛力でも成り立つのでしょうか?
式2は常にゼロですから、仮想変位に対する変化量もゼロです。が質点
の各軸の座標値(i=1⇒x座標, i=2⇒y座標, i=3⇒z座標) を表すとすると
![]() |
( 4 ) |
これは、を要素とする多次元ベクトル
と、
を要素とする多次元ベクトル
の内積と考えることができます。
つまり、仮想変位は
方向へのベクトル成分を含みませんから、質点に加わる力のうち、
方向の成分だけを取り出せば、その力は仕事をしません。これを改めて束縛力と呼んで構わないでしょう。
束縛力が仕事をしないということは、束縛力に従っている仮想変位に対して仕事をしませんから
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( 5 ) |
が成立つはずです。式(1)の関係を使って式(5)を展開すると
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( 6 ) |
これが、任意の で成り立つことを考えると、カッコの内側は 常に 0 になるので
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( 7 ) |
ということになります。従って、ニュートンの運動方程式は、を掛けて全質点の総和を取ると
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( 8 ) |
となり、式の中から束縛力が消えてしまうことが分かります。